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(精神的にグロと感じるかも?なのでR18。あと、TS要素とか。ヤバいと思った方は退避してください)

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「ん…………」
 奇妙な生暖かさを全身に感じながら、僕は目を覚ました。いまだに夢から覚めきらない
まま、ほんの少しまぶたを開く。けれども、まだ寝ぼけたままの僕の目が捉えたものは何
もかもぼんやりとした画像で、何一つ形がはっきりとしたものは存在していなかった。ま
だ脳が上手く動いていないのかもしれない。いや、それとも神経がきちんとつながってい
ないのかも。
「あ…………」
 半ば無意識に開いた口から、何の意味もないただの音が漏れる。それと同時に、こぽり
とかすかな音が僕の耳に届き、足元から立ちのぼった小さな気泡がいくつか僕の目の前を
通り過ぎていく。その光景をぼうっと見ているうちに、だんだん頭が動き出していき、今
の僕が置かれている状況をはっきりと捉えることが出来るまでにはなった。
 さっきよりも大きくまぶたを開く。目の前がゆらゆらと揺らめいていた。その光景は丁
度、水底から水面を見上げたような感じで、どこか幻想的だ。それもそのはず、今僕がい
るのはまさしく水中だったのだから。とはいっても普通の水ではない。ぬるま湯のような
暖かさで僕を包み込むその液体は、透き通った橙色をしていた。
 その液体を透かして見る先には、薄桃色の壁。しかしそれは固い金属でも木でもなく、
むしろ柔らかそうに見えた。表面は見ただけでもすべすべだと分かるが、それは磨かれた
石材のようではなく、むしろ生まれたての赤子の肌のようである。いや、まさしくそれは
肌なのだ。360度全方位の壁はすべて肉で出来ており。時折脈動するそれは、壁自体が
生きていることを僕にまざまざと実感させた。
 その肉で囲まれ、暖かい液体で満たされた小さなカプセルの中に、僕は一人ぷかぷかと
浮いていた。衣服の類は何一つ身に着けていない。それでも、この閉じられた世界には自
分ひとりだから、恥ずかしくはなかった。体を丸め、両脚を抱える胎児のような姿勢で、
僕はただ穏やかな時間が流れていくのを感じていた。誰もおぼえているものはいないだろ
うが、きっと生まれる前の赤ちゃんも、こんな気持ちだったのかもしれない。
 僕を取り巻くこの現状は、どう考えても異常である。普通なら、こんな状況はありえな
いだろう。それこそ、できの悪い映画か、そうでなければ狂人の見る悪夢でもなければ。
まともな人ならば、1分と立たず気が狂うのではないだろうか。
 しかし、僕はその異常さを全く感じていなかった。僕の心を満たしていたのは静かな心
地よさだけだったのである。現実の世界にはありえないようなの環境に違和感も恐怖感も
なかったが、それは当たり前だった。なぜなら、それはすべて僕が自ら望んだことだった
のだから。



 あの日、僕は幼馴染の女の子と大喧嘩をした。既に理由は何だったのかも忘れてしまっ
たほど些細なきっかけだったような気がする。自分が何を言ったかも覚えていないし、彼
女に何を言われたのかも思い出せない。ただ、相手が自分のことをまったく理解してくれ
なくて、僕も彼女のことがちっとも分からなくて、それがすごく悲しかったのだけははっ
きりと覚えている。
 失意にまみれ、抜け殻のままの僕がふらふらと町をさまよっていた、そんな時。ふと、
僕を呼ぶ誰かの声が聞こえた気がした。幻聴なんかじゃない、確かに僕を呼んでいたと思
った。その後どこをどう歩いたのかは覚えていない。気がついたときには、もう僕はそこ
にいた。よく知った町のはずなのに、記憶にない場所。まるで異世界に迷い込んでしまっ
たかのようだった。そしてかすかな戸惑いを感じる僕の目の前には、いつの間にか奇妙な
空気を纏った建物が姿を現していたのだった。見た目が特に異様だというわけではない。
でも、その建物はただあるだけで何か言いようのない違和感を撒き散らしていた。
 いつもの僕なら、明らかに怪しいそんな建物からはさっさと立ち去っていただろう。け
れども、その時の僕は頭の中がぐちゃぐちゃで、半ば自暴自棄のような状況だった。僕は
見えない手に導かれるように、ためらいもせずその中に足を踏み入れ、かすかに甘い香り
が漂う建物の中を一歩一歩、奥へと進んでいった。

 窓もない狭く暗い階段を上りきると、その先には、家具一つ置かれていないがらんとし
た空間が広がっていた。誰もいない空洞は、静寂に満ちている。引越し後のオフィスのよ
うなそこにも窓はなく、端に闇がたまった部屋は、どこかテレビで見たピラミッドの玄室
を連想させた。無意識に震えた体を腕を抑えて黙らせ、僕はさっさと帰ろうと踵を返そう
とする。
「あら、もう帰っちゃうの?」
 不意に響いた声に、はっとして僕は振り返る。僕の目の前に、一人の少女が寂しそうな
表情を浮かべて佇んでいた。18の僕より、少しだけ年上のような感じの、優しそうなお
姉さんだ。肩に掛かるつややかな髪、大きな瞳、そしてやわらかそうな体。その胸には、
ふっくらとしたふくらみが二つ。白いワンピースが、よく似合っている。
「わざわざこんな所まで来てくれたんだもの、おもてなしくらいさせてよ」
 そういってにこりと微笑む彼女は、とても魅力的に見えた。でも、さっきまでは確かに
誰もいなかったはず。この部屋の入り口は僕が立っているここだけだ。いったい、いつの
間に、どうやって。
「あ、もしかして私が急に出てきたからびっくりしちゃった? うん、そうだよね。さっ
きまで誰もいなかったのに、いきなり声をかけられたらびっくりするよね」
 驚きが顔に出ていたのだろうか。僕の顔を見つめていた彼女は、うんうんと頷く。
「あのね、ここはただの建物じゃないの。ここは……私なの。君が入ってきた入り口も、
さっき上がってきた階段も、今見てる部屋の壁も床も天井も、全部私。今君とお話してい
るのも私だけど、君が立っている場所、君を包んでいるのも私なの」
 やがて顔を上げた彼女は、僕をまっすぐに見つめながら、異様な言葉を紡ぎだした。僕
にはさっぱり理解できない内容が、すらすらと目の前の人物の口から語られる。
「つまり君はね、今、私のなかにいるの。……何言ってるの?って顔だね。うん、当然だ
よね。でもね、こうすれば分かってもらえるかな?」
 その言葉と共に、ワンピースのすそから覗く彼女の細い足がどろりと溶け崩れ、床と一
つになっていく。すぐに彼女が融合した辺りから床が脈動をし始め、その色も無機質な白
から、薄い桃色になっていった。変化はあっという間に部屋全体に及び、あちこちからど
くん、どくんという音が聞こえてきた。その音に合わせて蠢く壁や天井は、まるで巨大な
生き物の体内にいるような錯覚を生み出す。いや、彼女の言うことが本当なら、それは錯
覚などではなく、それこそが正しい認識なのだろう。
「ほら、ね? 嘘じゃないでしょう? ふふ、驚いた顔、かわいい」
 いつの間にか着ていたワンピースも消え、裸となっていた彼女は既に胸より上を残して、
すべてどろどろとしたモノになっていた。あまりに非現実的で異常な光景に、僕の思考は
麻痺し、悲鳴を上げることも、逃げ出すことも出来ずただ呆然と立ちすくむ。そんな僕に
彼女は安心させるように、優しく微笑みかけた。
「怖がらないでいいよ。君の命をとったり、ひどいことなんてしないから。私はただ、皆
と一緒になりたいだけ。みんなをしあわせにしたいだけだから。だから、ね? 君も、一
緒になろう?」
 彼女がにこりと目を細めた瞬間、僕の足元がぐにゅりと歪んだかと思うと、まるで何か
の食虫植物のように、肉の幕が立ち上がり僕の体を包み込んだ。暖かい感触が、僕の首か
ら下を優しく包み込む。
「どう? 私の体、気持ちいいでしょ? 邪魔な服なんてなくなれば、もっときもちよく
なるよ? ね、もっといっしょになろ?」
 不意に、僕の体を包んでいたジーパンやトレーナー、さらにはシャツやパンツの感触さ
えも消える。直接、肌にやわらかいものが当てられている感覚に、僕は無意識にびくりと
震えた。全身を余すことなく愛撫され、既に快感に固くなったモノが、やさしく包み込ま
れる。そっと撫で回され舐め回される感触に、僕の口からは抑えきれないあえぎ声が漏れ
た。目の前、先ほどから変わらずに床から生える彼女は、そんな僕の様子をにこにこと眺
めている。
「ふふ、すごいでしょ? 君の心臓の音、さっきよりもずっとよく聞こえるよ。どきどき
してるんだね。私もそうだよ。ほら、君を包んでいるお肉、さっきまでよりもどくどくい
ってるでしょう?」
 彼女の言葉の通り、生まれたままの姿の僕を包み込む肉は激しく脈動し、不思議な心地
よさを与えてくれていた。全身をマッサージされるようなその刺激にぼんやりとし始めた
僕の耳元で、彼女の声が響く。
「気持ちいいみたいだね。よかった。それじゃあ、もっともっと私と一つになろう? 君
の心も、私に見せて?」
 肉に包まれた首筋に、ちくりとかすかな痛み。そして、だんだん何かが僕の中に入って
くるような感覚。でも、注射とは違う。確かに、物理的な侵入もあるのだろうけど、むし
ろ僕が感じていたのは彼女に頭の中――いや、それよりは心だろうか――を覗かれている
ような感覚だった。けれども、不思議と嫌悪感はちっともない。
 それは永遠にも感じられたが、実際にはほんのわずかな間だったのだろう。不意に目の
前の彼女は悲しげに顔を歪め、僕を包み込む肉が慰めるように優しく蠢いた。
「……そう、辛いことがあったんだね。悲しかったよね、心が痛かったんだね。だから、
無意識のうちに君はここに来たんだね。大丈夫、もう大丈夫だよ。私が皆を一つにしてあ
げるから。だから、もう悲しまなくてもいいの」
 優しい、慈愛に満ちた声が僕の心にじんわりと沁みこんでいく。いつの間にか涙をこぼ
していた僕に、彼女はそっと囁いた。
「ねえ、君も私の娘にならない? 君も、君が大切に想っている女の子も、私の娘にして
あげる。君が大切にしている人は、みんな一緒にしてあげる。そうすれば、もう、けんか
なんて起きないよ。ううん、それだけじゃないよ、もっともっとたくさんの人を、私の娘
にしちゃえば、かなしいこともつらいことも、みんななくなるよ」
 どこかうっとりと話す内容は、僕にも素晴らしいもののように思えた。彼女は、一度口
をつぐみ、まっすぐにこちらを見つめて、問いかける。
「……どうかな? 私の娘にならない?」
 どこか何かが「普通」とは決定的にずれたようなその言葉。きっとそれを受け入れたら、
二度と向こうには戻れない。
 僕の頭は靄がかかったようにかすんではいたが、それぐらいは分かった。それを十分理
解しながらも、僕ははっきりと頷いたのだった。
「ありがとう。それじゃあ、君には特別にちょっと強めの卵を産め込んであげるね。ちょ
っとだけ痛いかもしれないけど、我慢してね。大丈夫だからね」
 にちゅり、という音が耳に届いたかと思った直後、僕のお腹に刺すような小さな痛みが
走る。首から下を覆われた僕には分からなかったけれど、きっと、彼女の言う「卵」が産
み付けられたのだろう。それを証明するかのように下腹部がじんじんし始めたかと思うと、
すぐにカイロを当てたようにじわりと熱を持ち始めた。その熱はお腹から胸、手足、頭と
全身に広がっていく。
「うん、上手くいったみたいだね。それじゃあ、馴染むまで私が優しく包んで、君を守っ
てあげるね」
 その言葉と共に、僕は全身をすっぽりと彼女の肉に包まれる。まるでカプセルのように
密閉された内部には、温かい液体が少しずつたまっていった。肉のゆりかごの中を満たす
水に揺られるうちに、だんだん眠気が襲ってくる。
「嫌なことは全部忘れて、ゆっくりねむっていていいよ。次に眼が覚めた時には、ちゃん
と私の娘になっているから。そうしたら、また可愛がってあげるからね」
 どこか遠くで彼女の声を聞きながら、僕の意識はゆっくり闇の中へと沈んでいった。



 そうだ、ここは「おかあさん」の中だっけ……。
 視線を落とす。やわらかく膨らんだ胸の下、へその辺りからチューブが伸びているのが
見えた。僕と「母さん」をつなぐ大切なものだ。「おかあさん」が僕に卵を産め込んでく
れたあと、ちゃんと馴染むまで栄養を送ってくれるようにこれをつけてくれたんだっけ。
 眠る前に聞いた「おかあさん」の言葉の通り、もうすっかり体の変化は終わっていた。
がっちりとした、とまでは行かなかったかもしれないけれど、男のものだった僕の体は細
くやわらかい女の子のものになっている。腕も足も、強く握れば折れてしまいそうな儚さ
があった。そして胸には緩やかなカーブを描く桃が二つ。自分では見れないけど、髪の毛
も長く伸びているみたいだ。
 しばし、生まれ変わった自らの体に思いをはせつつ、ぷかぷかと大きな子宮の中に浮い
ていた僕だったが、意を決すると曲げてひざを抱えていた腕のうち一本を伸ばし、そっと
周囲を囲む肉壁に触れた。それだけで僕の考えが伝わったのか、ゆりかごの内部を満たす
液は床へとしみこみ、僕を包み込む肉は花弁を開いていった。
 僕は細くなった自分の足でこわごわと地面に立ちながら、辺りを見回す。あれからどの
くらいたったのかわからないけど、ここは僕が最初に「おかあさん」と出会ったあの場所
だ。その丁度真ん中に、さっきまで僕が入っていたゆりかごがあったみたい。
 あの中にいたときは狭くて無理だったけど、今ならちゃんと手足を伸ばしたりすること
も出来る。生まれ変わった僕って、どんな感じなんだろう。そう思って自分の体を確かめ
る。鏡がないのが残念だったけど、それなりには分かった。すらりとしつつも女の子らし
い滑らかな曲線を描く体のラインを眼で追っていくと、おへその下、今まであれが合った
場所には何もなく、つるんとしていた。「娘」になったんだから当たり前だけど、なんか
妙な気分だ。うつむいた拍子に濡れた髪の毛が肌に張り付くのがちょっと気持ち悪かった
けど、仕方ない。
 ふと思って、自分の手をまじまじと見つめる。小さな紅葉のような可愛らしい手は健康
的な肌色をしていた。視線を手から外さないまま、精神を集中してみる。
 うんうん唸っているうちに、僕の目の前で少しずつ手が透き通っていった。ゼリーのよ
うな涼やかな色になった手にさらに意識を集中すると、「おかあさん」がやったみたいに
どろりととろける。スライムのような粘体と化したそれは、僕が意識するとぐねぐねと蠢
き、粘土のように自由自在に形を変えた。ひとしきり自分の体を変化させる楽しさを味わ
ったあと、もう一度精神を集中して人間の形と色に戻す。さっきと何一つ変わらない小さ
な手に戻ったそれを握ったり開いたりするのを、僕はへんな満足感と共に見つめていた。
 もっと体が馴染んで、ちゃんと練習すれば全身をとろとろにすることもできるようにな
るだろう。それに、「おかあさん」は僕の体に産め込んだ卵には、ほかのいろんな生物の
遺伝子が組みこんであるっていってた。気が向いたら、ゲームに出てくるようなモンスタ
ーの姿になってみるのも面白いかも。ラミアとか、ワーウルフとか。

 ああ、でもその前に「おかあさん」のお手伝いをしなくちゃ。みんな僕達といっしょに
して、しあわせになってもらわなくちゃいけないよね。そうそう、まずは僕の大切なあの
子とひとつになりたいな。
 そんな考えを浮かべながらぼうっとしていると、ふと頭の中に優しい声が響いてきた。

 ……あ、「おかあさん」。 え、ほんとう? 僕にあの子を仲間にする役、させてくれ
るの? うれしい、ありがとう。僕、頑張るよ。きっと、あの子も喜んでくれると思う。
うん、だいじょうぶ。それじゃあ、いってくるね。

 部屋の中、一人呟いた少女はゆっくりと歩き出す。彼女が部屋を去った後、いつの間に
か壁に開いた窓から見える町は、はるか遠くまで桃色の肉に侵食されているように見えた。



……つづかない。


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